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直木賞受賞作家 東山彰良さん講演会『本のなかの時間の流れ』

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10月17日(土)、小郡市文化会館にて「第153回 直木賞受賞記念 東山彰良さん講演会『本のなかの時間の流れ』」が開催されました。同氏は、1968年台湾台北市生まれ、小郡市在住の小説家です。
 

2002年『タード・オン・ザ・ラン』で第1回「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞を受賞。翌年、本作品を改題した『逃亡作法TURD ON THE RUN』でデビュー。08年『路傍』(集英社)で第11回大藪春彦賞受賞。


そしてこの夏、直木賞に『流』(講談社)が選出されたことは皆さんの記憶にも新しいことと思います。


この日は、西日本新聞社文化部次長の塚崎氏を聞き役に、読書やご自身についてのお話をして下さいました。


入場整理券の配布は早々に終了したとのこと。つたない文章でお伝えできるか分かりませんが、探検隊が聞いた事・感じた事をご紹介したいと思います。

 



塚崎氏:まずは、受賞作「流」について

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東山氏:デビューした時から祖父のこと書きたいと思っていた。祖父は中国の内戦で敗れ、台湾へ渡った人であったが、まだ最初の頃は筆力が備わっていないと感じていたので、年寄りたちから祖父のことを聞いたり、資料を集めたりと、準備だけはしていた。

2年前に「ブラックライダー」を書き切ったことが自信となり、祖父の物語を書き始めることにした。

主人公は、当時7歳だった自分に10歳足し、父の年齢からは10歳引いた17歳の少年。


書くにあたり、何度も父を誘い出しては昔の話を聞いた。替え玉受験に失敗して退学となり希望していない学校に転校した話など、父のエピソードを物語に組み込んだりした。両親の若い頃の話が出てくるので、書きあがった原稿は両親に見せ、もし「不愉快だ」と言われたら出さないつもりだったが、逆に「ここはこうじゃない」「当時の学生はこうだった」など細かな指摘をされ、それをGOサインと受け取って編集者に原稿を見せた。
 



塚崎氏:台湾での青春物語を、日本で選考委員の方だけでなく多くの読者に広く受け入れられたことをどう思うか


東山氏:大変うれしい。いい作品には、たとえ行ったことが無い場所でもノスタルジーを掻き立てられる事がある。 

台湾を舞台に台湾人の少年のことを自分が描き切れたとは思ったが、筆力があるかどうかが分からなかったので、認められたことはありがたいと思っている。
 



塚崎氏:「もう、『流』を読んだという方は手を上げて下さい。」
 

    (会場内挙手)
 

塚崎氏:「6割くらいですか」

 

東山氏:「まだまだ売れる余地があるということですね。」(会場笑)
 



塚崎氏:「それでは、今までの著書について伺いましょう」
 

     「路傍(デビュー作)」を書いた頃について

 

東山氏:大学を出て就職するも1年で退職。大学院へ進学したが、なかなか論文を書き上げることができず学位を諦めかけた頃、学生結婚で子供もいたので家族を養わなければいけないという至極全うなプレッシャーの中、にっちもさっちもいかないモヤモヤした気持ちの自分がいた。

ある夜、ふとアイデアもなく思いつくままに筆を走らせると、ささくれ立った心が妙に落ち着きを取り戻した。そのまま朝まで書き続けた。そしてそれを三ヶ月ほどかけて書き上げた小説が「逃亡作法」。
この小説でデビューした。
 



塚崎氏:犯罪物からの新境地「イッツオンリーロックンロール」は?

 

東山氏:売れない中年のロックバンドのロードノベル。博多が舞台。「めんたいロックの地」である博多に敬意を払って書いた物語。
オッサン達の青春小説。
 



塚崎氏:「路傍」が大藪春彦賞を受賞したが、この辺りが転機になったのかなという気がするが?higashiyama-4.jpg

 

東山氏:編集者から「そろそろ博多が舞台というのを脱却しては?」と言われた。

男っぽい町というイメージと、「船」と「橋」が幻想的な感じがして、舞台に船橋を選んだ。この賞を取って、作家になれたんじゃないかと思う。

まず、できた作品は妻に見せて感想を聞くのだが、返事は「全然よくない。面白くもなんともない。」だった。
しかし、書評家池上冬樹氏の目に留まり、同氏主催の講座に講師として招かれた時に「この小説は何か(賞を)取るよ」と言って頂き、半信半疑だったが、本当に受賞した。

 

「流」に関しては、妻に感想をたずねると、「普通」と言われた。「路傍」のことがあるので、妻がダメだというからにはもしかして・・・と思っていたら直木賞を受賞した。
 



塚崎氏:奥様が「面白い」といった作品は何?

 

東山氏:「ブラックライダー」。

ちなみに、宮部みゆきさんの感想は、「『流』よりも断然いい」、林真理子さんは、「私、無理!」だった。

 

塚崎氏:「万人に受けるという作品ではないかもしれませんが、私もとても面白いと思いました。会場の皆さんにも是非お勧めします!」

 

東山氏:「私の宣伝部長ですね」(会場笑)
 



塚崎氏:今後どう方向転換されるかと思っていたら、「ファミリー・レストラン」が出た。

 

東山氏:自分的にはミステリーを強く意識した作品。

 

塚崎氏:「シチュエーションスリラー『SAW』のような感じですね?」

 

東山氏:「まさか!?」
 



塚崎氏:「ミスター・グッド・ドクターをさがして」は?

 

東山氏:医療転職斡旋会社に努める女性を主人公にした作品。親戚に実際にその仕事をしている人がいて話を聞いて「これは面白いな」と思い、そこから生まれた。
 



塚崎氏:「ブラックライダー」について

 

東山氏:文明が崩壊した後の物語。近未来の食糧難の北米大陸が舞台。メキシコ・中米のあたりから救世主が生まれる。
1・2部で構成されていて、2部ではその救世主がアメリカの保守勢力と大戦争をする物語。

 

「ブラックライダー」を書き終えたことが一つの転機となった。

祖父の物語を書くのは自分の記憶の財産に手を付けることになる。下手に手を出すと、つまらない作品で終わる上に、記憶の財産を食いつぶすことになると思ったので、それより先に、「ブラックライダー」を書いた。これはSF小説なので想像力だけで書いたものであり、これが書けたということは、たとえ祖父の物語で記憶の財産を使い果たしたとしても、また想像力でやっていけるという事。自信を持つことが出来た。
 



塚崎氏:編集者あってこその受賞だと言われていたが。

 

東山氏:出す本が全てベストセラーになれば楽だが、自分の場合はそうではない。

編集者が上に掛け合ってくれたから、出版することが出来た。彼らがそこで働きかけることをやめていたら、本は世に出ない。リレーのバトンのようなもので、彼らのやり遂げたことを受け取ったような感じ。

 



塚崎氏:小説の書き方について、ストーリーが映像になって浮かんでくる?

 

東山氏:計画書を作って書くよりは、思いつくまま筆が走るまま書く。最初を書き始めることが出来れば、あとは開き直って見切り発車。
 



塚崎氏:書く時間帯は?

 

東山氏:一日の時間の使い方?

マルケス(ガルシア=マルケス)は午前中の記憶がはっきりしている時間帯が小説を書くのにベストだというが、それは嘘だと思う。年を取ると朝6時に目が覚める。午前中がとても長いので他にやることが無く小説を書いている。午後ちょっと休んで夕方少し書き、夜は10時に寝ている。めちゃくちゃ健康的。

小説の場面に合った音楽を聞きながら書く。

また、小説だけでは食べられなかった時代が長いので、大学で非常勤講師として中国語を教えている。なので、夏休み・春休みなどのまとまった期間に書く。ここのところ書く比重が増えており、これからは大学の授業を減らしながら書く時間を増やしていこうと思う。
 



塚崎氏:「作家」と「講師」の切り替えは?

 

東山氏:作家は孤独な職業と言われるが孤独と感じたことは一度もない。作品を書いているときは本当に楽しい。
かたや学生の前では、居住まいを正して「大人の顔」で対応するよう心掛けている。
 



塚崎氏:書けなくなる時はある?

 

東山氏:先が思い浮かばず行き詰まる事は多々ある。そういう時は、じたばたせずに休む。1~2週間休むこともある。
すると、今まで気づかなかった扉、新しい道を発見する。これこれまでそれらが見つからなかったことはないので、おそらくそれでやっていけると思う。
 



塚崎氏:20年くらい小郡に住んでいるとのこと

 

東山氏:この町の図書館と図書館の周りの緑が好き。残念なのは、消防署の近くのプールが無くなったこと。夏は近所の子供を連れてプールに行っていたので、今は行くことができない。是非プールを作ってほしい。

 

塚崎氏:「市長!いらっしゃいますか?」(会場笑)
 



塚崎氏:読書の喜びとはどういうもの?

 

東山氏:ゆっくり読書をできる時間があることがそれだけで贅沢。落ち着いていなかったり他に気持ちが囚われていると物語の中に入っていけない。一冊の本を読んでそれが楽しいと思えると(本自体の力もあるが)、自分の今の環境が心静かに本をゆっくり読める状態ということがわかる。

よく「読者の方に伝えたいことはあるか?」と聞かれるが、自分の本をこう読んで欲しいというのは一切ない。読書というのは100%読者の物であることは間違いない。一番幸せな読書体験とは、心を落ち着けて自分の読みたいように読むことだと思う。
 



塚崎氏:海外文学をよく読まれているが、日本の作家の作品は?

 

東山氏:正岡子規の作品は座右の書。
心が弱った時に読む。

「病床六尺」には慰められる。死の床にありながら隠しても隠し切れないユーモア。
死神ですら彼のユーモアは刈り取れないと分かって心強くなる。
 



塚崎氏:受賞で収入が増えたと思うがどのように使う?

 

東山氏:高価なものに興味はなく、車・携帯も持ってない。
しいて言えばCD。以前はCD 1枚の中に好きな曲が1曲あるくらいではそのCDを買うのを見送っていたが、今は買うことができる。

 

塚崎氏:「それは大きな変化ですね。」
 



塚崎氏:酒は好き?

 

東山氏:大好き。家飲み派。夕方から一人でちびちび舐めるようにゆっくりやる。
 



塚崎氏:今後の予定は?

 

東山氏:来年「ブラックライダー」の前日譚を出す予定。少年がいかにして伝説になって信仰の対象になっていくかという内容。

 

塚崎氏:「『エピソードゼロ』ということ?」

 

東山氏:「はい。」

 

塚崎氏:映像化への期待もできるのでは?

 

東山氏:ならなかったら残念なので考えないようにしている。ならなくても大丈夫。(笑)
 



higashiyama-3.jpg以上が講演の内容でした。

 

話に引き込まれ、気づくとあっという間に1時間半が過ぎていました。

 

堂々とした居ずまい、軽快なのに理路整然としたお話しぶり、次から次へと流れる楽しい会話から、東山氏のスマートさと飾らないお人柄を感じることができました。

 

小郡市から東山氏のような直木賞作家が誕生したことは、市民にとって本当に誇れることだと思います。

 

先生、今日は素敵なお話を有難うございました。まずは、「ブラックライダー」から読んでみようと思います。




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